あれは、何年前になるかなあ。
ギターかついで,
大阪からノコノコと何回目かの東京に行ったときのことだった。
本当に、何処へ行っても
それなりのドラマがあるもんだ。
その日のドラマの幕開けは、
一人の兄ちゃんが足を止め、俺の歌を聴いてくれたときから始まった。
場所は、
新宿コマ劇前。いっつも俺はここで歌うんだ。
新宿コマ劇場
ギターかついで放浪の旅だ。
伝説のブルーズ・マン ロバート・ジョンソン
夜通し朝まで唄うことも多かったが、眠たくなるとその場で寝た。毛布は必需品だった。
この日はすでに、
午前4時。この日は疲れていた。無性に眠たくなったが、季節は春の手前だったので野宿するにはチトまだ寒い。、カプセルホテルに行ってもチェックアウトまでいくらも時間がないので金がもったいない。
『あぁ、朝まで起きていて、昼間の公園で寝るか』
などと思って、そろそろ、歌も切り上げようとしたときだった。
「すいません、オリジナルですか?もっと聞かせてもらえませんか?」
という声が、ギターをケースにしまいかけている俺の頭上から聞こえてきた。
視線を向けると、
身長は180くらいあったかな、そしてやたらとガタイのいい兄ちゃんが立っている。
「ああ、聴いてもらえるんなら何ぼでも歌いますよ。どうせ、寝る所無いし」
俺は歌を聴いてもらえるのがうれしい。それがたった一人でもだ。また、朝まで話す相手がいるのもうれしいじゃないか。
こんな馬鹿ヤローの作った曲の何処がいいんだか知らないが、聴いてくれるんなら一所懸命歌うぜ。
そして、4〜5曲も歌ったろうか。
「ありがとう。お兄さん、よかったよ。大阪の人?」
と、ガタイのいい兄ちゃんが話しかけてきた。
よく見るとまつげが長く、
いかつい顔の癖してやたらと目がつぶらだ。
「ごついのにかわいい。」というアレだ。
チューバッカみたいとでもいうのか。それでいてやたらと言葉が柔らかい。
チューバッカ
「うん、そうやで。自分は(あなたはという意味。大阪弁だ)東京の人?」
「そうだよ。俺も終電逃しちゃってさ、始発で帰るんだ。」
「そっか。」
「でも、君のおかげでいい時間を過ごせたよ。ありがとう。」
「いや・・・、・・・・・」
俺はけなされるのは平気だが、褒められたり、礼を言われるのが苦手なのだ。
っていうか、虫唾が走る時さえある。ほんっとぉーに嫌な性格だ。
きっと、ガキの頃にあまり褒められたことがないせいだな。うん。
「明日は日曜だし、俺もここで夜を明かすか。良かったら朝飯でもおごるよ。」
ガタイのいい兄ちゃんは言う。
「ええ、そんなん悪いわ!!」
純度100%の社交辞令。おごってもらう気まんまん。俺はギター一本で旅するとき、こうやって生き抜いているのだ。
そして、歌ったり、しゃべったりしながら俺達はマクドが開くまでの時間を一緒に過ごした。
朝マクドだ。いいか、
朝マックじゃない。
朝・マ・ク・ド。
東京の「マック」と大阪の「マクド」の住み分けが、「朝マック」なる言葉が出来てからというもの崩れ始めている。嘆かわしい。本当は全く、どうでもいいが。
気持ちよく、おごられていると、徹夜の疲れと店内の暖かさのせいで俺はあくびを連発した。
「俺んち来る?どうせ、昼間寝るんでしょ?」
ガタイのいい兄ちゃんは言う。
「ええ、そんなん悪いわ!!」
純度100%の社交辞令。寝させてもらう、気まんまん。
俺はギター一本で旅するとき、こうやって生き抜いているのだ。
ふとん!!ふとん!!野宿と違って、
「屋根と壁の中でふとんにくるまって寝る」というのは旅をしているときには
最高の贅沢なのだ。
放浪型ストリート・ミュージシャンにとってはな。
本当に屋根の付いた家の有難さはこういうときに分かる。
というわけで、俺は彼の好意に甘えっぱなしの体で山手線は大塚という駅に降り立ち、彼が一人暮らししているというマンションに付いていくことに。
しかし、しかし・・・、俺はこの時点で妙な違和感を感じ初めていた。
続く