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ゲームの達人
信じられないくらい熱い男に出会ったことがある。
思えば俺は、この人生でたくさんの人間に出会った。
親、兄弟、友達、恋人・・・
憧れのロックン・ローラー、小説家、コメディアン、
格闘家、アスリート、俳優達・・・。
たくさんの人間を尊敬し、影響され、憧れ、今、ここに俺がいるわけだ。
しかし、スーパースターの輝きをもった人間の
生き様を現実に目前にしたことがあるか?
幸運にも。俺は。ある。
彼と同じ時代に生まれてよかったと、そう思える人間を目の前で見たことがあるのだ!!
是非ともそいつを紹介したい!!
俺達はその男に出会ってしまった!!
とある休日、友人と難波(なんば。大阪の繁華街)の街をぶらぶらしていた。
なんの変哲もない昼下がり。のはずだった。
しかし、それから起こった出来事が、この日を俺の中で特別な日に変えてしまった。
忘れもしない2月16日・・・・、もはやこの日は俺にとってanniversaryなのだ。
それまで、他愛もない会話に興じていた友人が突然、青ざめた顔で
「ハラ痛てぇ・・・」
と言いだしたので、ゲームセンターのトイレを借りることにした。
心斎橋筋商店街の
「セガアミューズメントパーク」
だったように思う。
俺たちは、エスカレーターを使い施設を登っていった。
トイレはどの階にあったっけ?
そして、体感ゲームフロアーに到着したときだった。
実は最初に、その男の姿を見た時は、友人と2人で大爆笑してしまった。
なんだ、こいつのカッコは?そしてこの滑稽な動きは?
男は数あるリズムゲームの一つ、
ポップンミュージックなるものにに熱中していた。
数人の客がポカンと大きく口を開けて目を点にして見守っていた。
|
ポップンミュージック |
何故なら、その男の格好と動き方が
あまりにも滑稽だったからだ。
姿から説明すると、
もうオタクの標本にしたいくらい
これでもか!!!!と言うくらいにオタクなのだ。
異様に整えられた7:3分けの頭髪。テカテカに光る黒髪。
クリーム色のスウィングトップ(なのか?)。
茶色ののスラックス。しかも、7分スソだ!
そして、白いソックス。
もちろん、ラコステのバッチもんだ。
白のスニーカー・・・。スニーカーに至っては靴紐ではなく、
昔懐かしい
マジックテープの奴だ。
どのパーツをとってみても980円という値札以上はつけれないような代物だ。
多分、新世界(大阪のローカル地帯)や、スーパーのワゴンセールでしか手に入らない
激レアアイテムだろう。
身長は175cmくらいで、ちょい太り気味の体。
年齢は・・・・全く分からない。
本当に分からないんだ。25から40の間ではあると思う。
雰囲気は老けているのに、異様な童顔。
俗にいう、
トッチャンボーヤとしか言いようがない。
しかし、、確実に見た目よりイッテル年だろう。
このような男が一心不乱にポップンミュージックと格闘しているのだ。
赤、青、黄、幾色にも点滅するボタンを必死にたたいている。
すでに最高難易度に近いハイレベルでゲームをこなしているらしい。
ゲームをプレイするその姿、その動きがまた、
滑稽で滑稽で・・・・。
俺達は、
「どこにでも、いるんだよな、ああいうゲーマーオタクって」
と少しの間、冷やかし半分に、他の客にマジってその男のプレイを見守っていた。
まもなく、男の奮闘むなしく、ゲームオーバーの画面になった。
俺達は苦笑混じりにその場を立ち去ろうとした。
まさにそのときだった!!
なんと、男は、ゲーム機の前で素振りを始めたのだ!!
・・・・素振りだぜ?おい?
男は手の動きを厳重にチェッックしながら、ゲームのボタンを叩く順番を確認していく。
俺は、人間がゲームの為に素振りをするのを生まれて、初めて、見た!
大の男がゲーム機の前で素振りをするという異様な光景を眼前にして
立ち去ろうとしたはずの足が凍り付いて動かなくなった・・・。
冬とはいえ、アミューズメントパークの店内は空調が効いていて暖かい。
太っている奴はエテシテ、汗かきだ。素振りをする男の肌からは汗が吹き出ていた。
男はおもむろにポケットから
マイタオルを出して顔を拭き始めた。
ゲームの為にマイタオルまで用意しているのかっ!!
男は、やがて素振りを終了し、動きを止めた。。
そしてゆっくりと深呼吸をくり返し、拳を握りしめて、ガッツポーズを作った。
精神集中しているらしい・・・。目を閉じてそのまましばらく、動かない。
と、男はカッと目を見開き、ゲーム機に向き直った。
やるのか?再チャレンジするのか?
俺と友人は、一連の余りに非日常的な光景に呆然と見とれ、その場を立ち去れない。
視線はその男に釘付けだった。
男がコインをゲーム機に投入する。
次の瞬間、またしても俺達は信じられないものを目撃してしまった!
なんと、男はゲーム機に向かって一礼をしたのだ!
「こ、こいつは
ただもんじゃねぇ!」
その時、ようやく俺と友人は、目の前の人物が普通の人間ではないことに気づき始めた。
ゲームが始まった
彼の戦いが始まったのだ。
音楽が流れ、次々に撃破すべきリズムのマークが流れてくる。
まだ、ゲーム序盤だ。男は軽快にクリアーしていく。
たかが、ゲームなのになんて真剣な瞳をしているんだ。
男の瞳は
ひたむきにキラキラと光輝いている。
はっ!!
しかも、しかも・・・
お、踊っている!
奴は踊っている。
ものすごくかっこわるいが、高速でリズムボタンを叩いていく手の動きに併せて、奴の体は
見たこともないような動きで踊っているのだ!!
I have never seen such a strange movin' !!
ごめん、謝る!
正直言って、俺には出来ない・・・。頼まれても出来ない。
あ、あんな、かっこわるい動きは、死んでも出来ない!!
みんながかっこいいと思うであろう動きでしか踊れん!
お、俺は人の目をこんなにも気にして生きていたのか・・・・。
いきなり、この男に、悟らされてしまった・・・!
♪少しくらいはみ出したっていいさ oh 夢を描こう
などと、ミスチルの「Tomorrow never knows」をカラオケで気持ちよく歌うのは簡単だが、はみ出すっていう
のはこんなにも格好悪いものなのか?
しかし、奴は完全にオリジナルな動きで、ありのままの姿で、俺の心を打っているではないか・・・。
・・・・そうなのだ。
何か、俺の心の奥の方で、ふつふつと静かに感動が巻き起こってくるのを感じずにはいられない。
なんだ?この感情は??一体、何なんだ?
俺はこんな男に感動などさせられたくはない・・・・。
みろ!こんな「とっちゃんぼーや」だぞ!
今までの俺の生涯でこんな奴と合計で何分喋ったよ?
一時間は絶対にいってないぜ?
それぐらい、相手にしないタイプだぜ?
しかし、それは同時に、自分の器の小ささという物を思い知るということだった。
まままま、負けた・・・。まず、それを認めよう。
俺は
THE BLUE HEARTSの名曲、
「ダンスナンバー」に込められた意味が初めて実感として分かった。
♪誰かが決めたステップなんて関係ないんだ、ありのままでいいよ
♪格好悪くたっていいよ、そんなこと問題じゃない・・・
俺は呆然と心の葛藤を受け止めながら、男のプレイを見守り続けた。
そうするうちに第一ゲームを一気にフィニッシュ!!
奴はフィニッシュの際、最後のボタンを真横になぎ払うかのように決めのポーズをとった。
決まった。
か、か、格好悪いが、たまらなく格好イイ!!
洗脳されているのか??俺?
俺と友人はこの見知らぬ男に、ごく自然に拍手を送っていた。
しかし、真のドラマはここから始まったのだ。
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