すごい!!
ゲームの難易度はどんどん上がっていく。
もう、なにがどうなっているのかまるで分からない。
男の踊りを踊っているようなプレイスタイルは更に白熱していく。
リズムマークがかなりの高速で同時に5つも6つも落下してくる。
それをさばく男の手は、男の姿はもはや
阿修羅観音
いや、 マジで冗談ではなく男の手の残像が見えるんだ!
最後の一個を撃破!!この面もクリアーしたぞ!!
俺達が心の中で快哉した瞬間、奴は頭を両手で抱え込んでその場に這いつくばってしまった!!
何か、俺達では分からない小さなミスがあったみたいだ。
「お、おい、君!たかが、ゲームじゃないか!」とは言うまい。
分かるぞ。お前にとっては、ここが戦場。
本気で頂点を目指すお前にとっては許しがたいミスだったのだろう。
ゲームは男に休憩を許さない。更に、更ににゲームはハイレベルに進む。
奴は立ち上がり、ゲーム機に向き直った。
しかし、男の動きが少しおかしい。
???
男は左手を懸命にさすっている。なんてこった!!
奴の左手が痙攣を起こしているではないか!!
リズムボタンを激しく叩くために、
左手が既に限界を迎えているのだ。
何時間
やってんねん!
どうして、何のために、そこまでして君は立ち向かうのか!!
俺と友達の目からはいつしか涙があふれ出ていた・・・。
奴は、痙攣する左手に鞭打ち、プレイを続けている。
獣のような目は全く輝きを失っていない。
しかし、なんだ!?このゲームのレベルは!!
揺れてるよ!先ほどまでは直進で落ちてきたリズムのマークが、
すべてゆらゆら、揺れながら落ちてくるのだ!!
もう、常人ではとらえることの出来ないその動きを奴は全て見切り、
リズムにのって、ひとつひとつマークを撃破していく。
その姿からは青白いオーラが立ち上り、もはや俺達の目には
”ゲームの神”が
光臨
したとしか思えなかった。
しかし、その時、初めて男がミスった!!
素人目にも分かる大きなミスを犯してしまったのだ。
だが、時は流れゆく。残酷に。
男の左手は明らかに限界を通り越え完全に死んでいた。
明らかに彼の思うようには全く動いていない。
だが、次々とおそってくる、リズムマークは待ってはくれない。
男は次々とミスを犯し始めた・・・・。
それでも彼はベストを尽くした!決死レあきらめずに右手だけを頼りに立ち向かう!
何も振り返らずに・・・、何もためらわずに・・・。
・・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・すべてが終わった。
この挑戦も、彼の敗北で終わった。
奴はその場にうずくまり立ち上がろうとしない・・・。
俺と友達は顔を見合わせ、うなづいた。
そしてゆっくりと奴に歩み寄った。
「見せてもらいました。あなたのファイトを」
「感動したっす!」
俺と、友達とゲーマーの彼は三人でヒシッと抱きしめあった。
みんなの目に涙が浮かんでいた。
その時、ゲームセンターのあちこちから拍手が巻き起こった。
(すまん、言い過ぎた。これは嘘だ)
俺達は普通に男の一ファンになってしまっていた。
「惜しかったですね。最後のゲーム」
奴はそんな俺達の言葉を聞いて、微笑みを浮かべ静かに言った。
「これで、終わりだとは思っていませんから・・。
全ては通過点です。」
「!!!」
うおおおおおお!!!かっちょいい!!
「今日は、残念ながら肉体が限界を超えてしまいました。
しかし、この左腕が完全になったときこそリベンジです!」
惚れたよ!!アンタに惚れた!!もう何も言うことはねぇ。
男のセリフは俺には、オリンピックの銀メダリストがその結果に満足せず2位の表彰台から
次こそ、TOPを狙うというコメントのように聞こえた。
あくなき挑戦者・・・・!
「が、ががが、頑張って下さい!」
「お、応援するっす!!」
俺達は奴に握手を求めた。
こんな奴がいるんだ。一所懸命ってなんてすばらしいんだ!!
彼の話だと、
全てのリズムゲームを最高点で攻略していくのが目標だそうだ。
なんて気高い目標なんだ!!パンピーの俺達からは想像もつかないでっかい
「夢」だ!!
俺と友達はものすごく大切なことを奴から学んだ。
ありがとう!!ありがとう!!そして、さようなら!!
一度、君もセガアミューズメントパークに彼を見に行くがいい。
彼はまだ、そこで生きる伝説としてプレーしているかもしれない。
興奮冷めやらぬ中、俺と友達は家路についた。
「なぁ。」
感動の余韻に浸っていた為、無口になっていた俺達だが、友人が口を開いた。
「でも、あんなことして何の役に立つ・・・・」
「シーッ!!」
俺は友人の言葉を制し、頭を振った。野暮なことは言うな。
友人もそういう俺の気持ちを察したらしく、話題を違うものに変えてくれた。
しかし、友人の気持ちも分かる。そういう俺も・・・・
「あいつ、女にモテナイだろうな・・・。」
「ゲームセンターに入り浸っているみたいだが、生活どうしてるんだ?」
「やっぱり、あんな風には死んでもなりたくねぇ・・・。」
そのような疑問や気持ちを懸命の努力で全て押し殺していたからだ。
終劇