俺は、すっくと布団の上に立ち上がり、ミッキーをもったまま奴の寝室に向かった。
あることを問いただすために・・・。
ガラっ!!
今度は俺のほうから扉を開け奴の寝室に入っていった。
「虎穴に入らずんば、虎子を得ず」
まさに猛獣が潜む洞窟へ足を踏み入れた気分だった。
この闇の向こうに確実に奴は居るのだ。
程なく、カチッと、音がして部屋の電気がついた。
奴は眠そうな目をこすりながら、
「んん、何??」
と、俺のほうにベッドの上から視線を向けた。
(騙されるか!!寝ていたふりしても駄目だぜ。俺はお見通しなんだ!)
俺はミッキーを固く握り締めながら用意していた言葉を吐き出そうとした。
・・・・・・・しかし、出ない!!
危険ではないか?この質問をすることはサメに血の匂いを嗅がすことにはならないか?
「い、いや、今日はありがとうね」
全く関係のないことを言ってしまった!
どうするんだ?くそ!いざという時の俺はこんなに頼りないのか??
聞け!!聞け!!聞くんだ!!
「全然いいよ〜!気にしないで」
なんてこった!!奴の言葉とかぶってしまった!!
「え?何??」
奴はけげんそうな顔で問い返してくる・・・。
Oh!My God!(マイガッ!)
せっかく一瞬の勇気を出して聞いたのに!
「何か言った?」
そういう奴の表情は、本当に朗らかで屈託がない。
俺は深呼吸をして、今度はゆっくりとはっきり聞いた。
「あんた、もしかしてゲイですか?」
奴はさっと顔色を変えると重い沈黙状態に入った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
やっぱりそうだったのか・・・・・!
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
ヲイ!やたらと長い沈黙だな・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
この沈黙であっさり自我崩壊した俺は間を持たすために訳の分からないことをしゃべり始めた。
「い、いや、あのさ、別にいいんだけど、アメリカではゲイも結婚できるしね・・・。
こ、これからは普通だよね、俺だってやっぱ、結婚したいし」
なんのことだ?自分でも訳が分からない。
これでは俺が奴に求婚してるみたいじゃないか!!
奴は、ベッドに座りなおして、ふーっとため息を一ツついた。
「いや〜、分った?」
頭を書きながら、奴はあっさりとその事実を認めた。
照れてるのか?おい、照れてるのか?
ここはそんな場面じゃないだろう!!照れ隠しで済むのか?
俺のこの恐怖に満ちた時間をどうしてくれるんだ!!
しかし、奴は穏やかな口調で自分の人生を話し始めたのだ。
中学に入って自分が他の男の子と違うことに気付いたこと。
それで、誰にも言えず非常に苦しんだこと。
高校では好きな友達に告白したこと。
そいつはお前とは恋人としては付き合えないがずっと友達だといってくれたこと。
初めて分かり合える仲間とであったこと。
でも、やっぱり男女の仲と一緒で恋というものは簡単ではないこと。
俺の孤独を唄う歌に共感したこと。
淡々と奴は語った。
そうしているうちに、
奴に一人の人間としての愛しさが湧いてきた。
そうか、こいつも一人の人間で一所懸命、生きてるんだ。
知らないうちに俺達は打ち解け、寝るのも忘れて語り明かしていた。
しかし・・・・・
「待てよ、これがこいつの手かも知れん・・。」
という疑いは終始、頭を離れることはなく、ミッキーマウスの目覚まし時計を手から離すことはなかった。
多分、打ち解けながらも笑顔は引きつっていただろう。
さらに、言うなら、奴のことを気に入り始めたときに
「これは恋愛感情じゃないよな?」
と自分に言い聞かせながらでないと話が出来なかった、臆病な俺が居た訳だ。
完