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イースター祭の悲劇
最終章
あと15個だ。たった15個なんだ。
駄目か。駄目なのかっ?
俺達の力はこんのもなのか?
そのとき、ハゲが絶叫した!!
「あれ、あれは
なんだーっつ??」
「どうした、ハゲ?」
「あれだ!!あれあれ!!」
ハゲの指差す方に目を向けると
食卓の端の方のかごに、たまごが山と積まれている。
「シーッ!」
俺はハゲの口を押さえて、みんなと目配せした。
確かに不自然だった。でも、何が?
・・・・・・・・。
俺は食堂を見渡してその不自然さの正体に気がついた。
すでに一人に一個、朝食用のタマゴは行き渡っている。
あんなにタマゴを朝から食わせる気か?
「ハナタレ、どう思う?」
「あの中に紛れ込ましているに違いないな」
俺は大きく、うなずいた。残り
22個
全部は無理にしろ、
あそこに大量のタマゴが紛れているのはもはや疑いようのない事実に思えた。
土壇場でまたしてもハゲの直感が生きた!
しかし、食卓には気の早いガキや
新聞を読む親父などが席に着き始めている。
「こんなに人がいちゃ、手が出せねえな・・・。」
あごをさすりながらつぶやくチビの姿は、もう小学生には見えなかった。
どう見てもルパンの頼もしき相棒、
次元大介
そのものだった。
どうする?どうする?
目の前にお宝があると言うのに手が出せない。
このままゲームが始まるのを指をくわえて待つしかないのか?
「慌てることはないよ。ゲームが始まってから堂々と頂戴すればいい。」
と、ハナタレ。
「どうしてだ?ゲームが始まってしまえば残りの奴と奪い合いになるぞ!」
と、ハゲが気色ばんだ。
「だからさ、もしゲームが始まっても、最初はさ、みんな、
一目散に外に探しにいくよ。俺達がそうだったように」
なるほど、そうかも知れないない。
いや、間違いないだろう。
頭で考えずにすぐに駆け出すガキの習性は、他の奴らも俺達と同じはずだ。
まして、他のガキ共は素人だ。
全く、ハナタレはよく悪知恵の働く奴だ。
食事が始まり、そして終わった。
ゲーム開始の8時になった。都合のいいことにガキ共は、
玄関のエントランスに一度集められた。
更に都合のいいことには全員、靴を履いている。
これではゲーム開始と同時に、もと居たロッジの屋内に飛び込むという
発想は誰にも出来ないだろう。
無論、俺達も靴を履いてはいるのだが、紐は結んでいない。
俺達の意識はゲーム開始と同時に
誰もいないはずのロッジの食堂にとんぼ返りすることにあった。
もう一度、ゲームの説明があった後、
「じゃぁ、開始しま〜す!!」
例の眼鏡のお姉さんの合図でとうとうゲームが始まった!
何も知らない哀れなガキ共は、果たして歓声を上げながら、
元気よく一人残らず外に飛び出していった。
まさに、ハナタレの読みどおりだ。
俺達は顔を見合わせてほくそえんだ。
俺達は俺達のゲームを終わらせなければならない。
「さあ、お宝を頂こうぜ!」
俺達は人気のない、がらんとした食堂に戻った。
そして、かごの中のタマゴを調べ始めた。
すると、はたして・・・・!!
普通のタマゴにしては軽すぎるものがたくさんある。
それはまさに、中にくじが入っているお宝タマゴだった。
あるわ、あるわ、なんと、実に
13個
のお宝タマゴが見つかったのだ!!
合計
97個
!!
100個の内、
97個
までが俺たち四人の手の中にある!!
ハゲ、ゴミ袋に入れとくんだ。
「おう!!」
ハゲの持っている黒いごみ袋は、
97個
のお宝ではちきれんばかりになった。
俺達は床に仰向けにひっくり返って
「あはははは!!!」
と、狂ったように笑い続けた。
ひとしきり、みんなで喜びを分かち合った後、俺は真顔に戻って尋ねた。
「これから、一時間、どうする?まだ、他の奴らは宝探ししてるぞ?」
「どうする?」
みんなは顔を見合わせた…。
俺は決断した。やるからには容赦はしない。
「一個でもいいから見つけるんだ。悔いを残すな。100個全部集めるんだ!あきらめるな!」
「よしきた!!」
俺達は弾丸のように表に飛び出した。
このゲームをより完璧にする為に。
俺達の明日の為に!!
するとどうだろう。
「つまんな〜い」
「ほんとにタマゴ隠してあるの?」
と、不満顔のガキ共と、それを困ったような顔で見つめる父兄、
そしていぶかしげな顔で集まって話し込んでいるスタッフ達の姿があった。
そりゃ、そうだ。見つかるわけはない。あと、3個。
たった3個しか宝は残されていないのだ。
残りの97個は俺達がそっくり頂いた後なのだから。
しかも、残りの3個はあれだけ探して見つからなかったのだから、
相当念の入った隠し方をしてるに違いない。
俺達は、異様な雰囲気になってしまった宝探しゲームの集団に混じって、
なおも根気よく探した。
ばらばらになって思い思いの場所を探した。
その内に、
「あったよ〜!!」
と、異様にうれしそうな声が遠くで聞こえた。
ついに俺達以外のガキがタマゴを見つけたのだ。
クソ、100個全てを集めるという当初の目的は露と消えた。
栄光と挫折・・・。
「あった、あった!!」
また声が上がった。またか、ちくしょう!
しかし、聞き覚えのある声だ。チビの声じゃないか!
奴がまた奇跡を起こしたのだ!
50人で探して、残り2個という状況で、
とどめとも言える
99個
めを探し当てたのだ。
つまり俺達は100個のうち
98個
までを手にした事になる
もちろん、それが99個めだというのを知っているのは俺達以外いないのだが・・・。
楽しい楽しい宝探しゲームの時間は終わった。
子供達は広場に集められた。その前には折りたたみ机が並べられ
上には、プラモデル、ミニカーといったおもちゃや、お菓子の山があった。
しかし、
「○○番のカードを持っている人は誰ですか〜?」
とスタッフのお兄さんの声に応える者はいない。
広場には異様な雰囲気が充満し始めた。そして誰もがざわつき始めたときに、
「もういいだろう」
おれの目配せを受けて、ハゲがみんなの前に歩き出した。
「?」
状況がわからないガキ共の前に、ハナタレは持っていたごみ袋の中身をぶちまけた。
98個のタマゴ!!大人たちはようやく、謎が解けたような顔をした。
ガキ共は、誰もがあっと息を呑んだ。
得意の絶頂だった。俺達4人はまさに、
「どうだ!!」と
言わんばかりの顔であたりを見回した。
俺達を褒めろ、力のない自分達を呪え!俺達こそ、宝探しマスターなんだ!!
しかし…。
シーン。
ん?
何かおかしい。何かが違う。
どうしたんだ?俺達は英雄じゃないのか?
ガキ共、俺達を称えろ!
大人達よ、もっと、褒めてくれ!!
賞賛の嵐を巻き起こしてくれ!!!
しかし、俺達を包むものは冷たい視線とため息だけだった。
俺達、ガキには分からなかった。
4人を包むこの雰囲気の正体が。
歴史上の軍師のように智謀の限りを尽くしたハナタレ、
伝説の盗賊のように宝を探し当てたチビ、
9回裏ツーアウトから逆転ホームランとも言うべき
閃きを連発したハゲ、
俺達は英雄の筈だった。
しかし、他の人達にとっては楽しいイベントを台無しにした
A級戦犯
に過ぎなかったのだ。
俺達は全員の前に立たされ、お宝全てを没収された。
さっきまでの英雄気分は消えうせ、
「何か非常に悪いことをしてしまった」
というような惨めな気持ちが襲ってきた。
しかし、なおも、俺に語りかける声があった。
「何故だ?俺達は勝者のはずだ。頭を使い、ルールの裏をかき、
そしてここにいる誰よりも、一所懸命に宝探しゲームを楽しんだのだ。そして、勝った。」
本当に分からなかったのだ。何故、俺達が裁かれなければいけない?
「決まりごと?」それが何だ。
決まりごとをバカ正直に守って幸せになれるのかい?
他のガキ共は平等にお菓子とおもちゃを分配され、どうにか機嫌をよくしていた。
しかし、俺達に対する、理不尽な仕打ちはこれだけではすまなかった。
その日は、ソフトボール大会、ハイキングなどのプログラムが予定されていた。
俺達はそういう遊びこそしたかったのだ!
なのに牧師から一日中、
「汝、隣人に幸せを分け与えよ」
(イヤ、全くその通り)
などと説教を食らうことになり、
ロッジから一歩も表にでることは許されなかった。
外からは明るい歓声・・・・。
俺達の勝利の報酬は
説教をくらい反省を迫られるという屈辱だった。
全く、納得はしなかったけど。
多少、脚色したが、まあ、こんな思い出があるわけだ。
今では、本当に笑える話だ。
後で大人達に聞くと
「末恐ろしいガキだ」とか、
「いや、ああいう奴らが出世するとか」
いい酒飲み話になったそうだ。
今では俺も立派なアウトローになってしまったがな。
情けなくもはっきり言う。
あの頃は良かった。
イヤ、俺のことではなく。
完
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